二拠点生活を古民家リノベーションで快適に住まう
大雪山系を望む雑木林に溶け込むように立つカラマツ板張りの家。玄関の引き戸を開ければ、大黒柱と太い梁を木組みで仕上げた重厚な空間が目の前に飛び込んできます。この建物は、鷹栖町に立っていた築102年の古民家を、武部建設が2017年に東川町に移築再生した移住者の住宅です。
「2022年の春先、東川町に家を持ちたいと物件を探していたときに、インターネットの不動産情報サイトでこの建物の新しいオーナーを探していることを知りました」。そう話すAさんは、神奈川県横浜市在住。古民家の趣を残した建物は、もともと骨董の家具や道具類、器が大好きだったというAさんにとっては「一期一会の出会い物だった」と言います。そして、10月には仕事の拠点である横浜市と東川町を往復する2拠点生活を始めました。
ひと冬過ごしたのち、Aさんはより快適な東川暮らしを実現するため、建物の移築再生を手がけた武部建設にリノベーションを依頼しました。「既存のつくりは気に入っているので、できるだけいじらずに、北側にあった浴室と洗面室を眺めの良い南側へ移動したかったんです。それにはやはり、建物をよく知る武部建設に相談するのが一番いいと思いました」。
このほか、Aさんは浴室だった場所を個室に替え、さらに小屋裏に新たに階段をかけて納戸を兼ねた書庫を設け、トイレも一新したいと要望。設計にあたった佐藤は「伝統的な木組み技術で建てられた古民家は、住まい手の暮らしに合わせたリノベーションがしやすいのも大きな特徴です」と話します。
夏の間、タモを基本とした古材と、古色仕上げを施した新材を織り交ぜながら、Aさんの希望を叶えるリノベーションを実施。「一つひとつ手作業で行われる大工仕事は、見ているだけで楽しくて飽きませんでした。佐藤さんが工事の進み具合に応じて、細部の確認をしてくれたのも嬉しかったです」と振り返ります。
2ヵ月の工期を経てリニューアルされた浴室は、天井にサワラ材、壁にタイルを張った造作仕様。大きな開口からは、雑木林や植栽を吟味して整えた庭を一望できます。風が抜けて陽射しが入るので明るくなり、いつでもカラッと清潔な状態を保てるようになりました。「明るくなって、さらに居心地がよくなりました。工事後でも、ちょっとした不具合もすぐに対応してくれるので、これからも安心して暮らせます」と、Aさんはにこやかに話してくれました。100年超の時を刻む住まいは、新しい主の暮らしに磨かれ、さらに深く豊かな表情を蓄えていくことでしょう。