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リンゴ畑の中に、突然現れた大正時代の倉庫。これは約80年前の大正時代に建てられた北海道立滝川畜産試験場の機械庫を、砂川市北吉野町に移築・再生した建物。この機械庫は、札幌市厚別区にある野外博物館「開拓の村」にもレプリカがある歴史的な建造物です。移築・再生された建物は、古風で趣のある雰囲気と450㎡を超える広さを生かし、農産物の直売をはじめ、コンサートなどができる多目的スペースとして活用されています。

この建物を運営するのは、三谷将さんが代表を務める砂川市内の農家グループ「アップルガーデン」。以前から倉庫の建築を考えていた三谷さんが古材の活用・民家再生を得意とする武部建設と出会い、古材を生かした建物が欲しいと思ったのが事の発端。その後、滝川の機械庫が解体されることを知り、実際に見に行ったところ「形がとても美しかった。特に屋根の形と下屋のスペースに魅せられました」と三谷さんはその当時を語ります。そして念願が叶い、既存の建物の骨組みをほぼそのまま使い、重厚な雰囲気を再現しつつ生まれ変わりました。

「畑の中を歩いて風景を見てほしい」「子どもたちが農業に触れて感動できる拠点にしたい」…。三谷さんの夢とともに広がる倉庫の可能性に今後も注目が集まることでしょう。

この建物の現場を担ったのは、武部建設の大工棟梁・村上敏郎さん。梁、桁、小屋組みなど骨組みの大部分を再利用し、大正時代の美しくも雄々しい建築が蘇っています。アップルガーデン代表の三谷さんが惚れ込んだ下屋や、ダイナミックな木組みに、思わず感嘆の声をあげたくなる、そんな建物となっています。

建物の美しさや希少性もさることながら、この試みでは、自治体が所有する建物を民間が解体して再利用したことでも注目を集め、北海道が所有する財産では初めてのケースとなりました。古くなれば壊すしかなかった建物を再生させる「リユースシステム」には、エコロジーとしての視点に加え、公共工事の新たな方向性を示すものとして全国的にも注目を集めている事例です。